静かな着陸:デザイン・食・テックの中堅4社が今年、日本市場に入り込んだ――そして、旗艦店から始めた会社は一社もなかった
主なポイント
- 1日本の対内直接投資残高は53.3兆円(前年比4.5%増)と過去最高を更新し、グリーンフィールド投資も316億ドル(同15.4%増)で過去最高。2025年6月、政府は2030年の残高目標を100兆円から120兆円へ引き上げた。扉は開いており、しかも予算がついている。
- 2ジェトロが2026年2月26日に公表した外資系企業調査(有効回答1,520社)では、61.6%が今年度の黒字を見込み、赤字見込みの3.6倍に達した。約6割が日本での事業強化・拡大を予定し、その比率は小売業が全業種で最も高い。
- 32020年にフォルリで創業したバッグメーカー、マニコミオ・デザインは、卸売と、大阪・阪急メンズおよび東京・髙島屋でのポップアップを通じて日本を最大の海外市場に育てた。2026年末に開く銀座の旗艦店を出すのは、現地のディストリビューターである。店は賭けではなく、報酬だ。
- 4ボーデは逆の道筋から同じ規律にたどり着いた。この地域で10年近く卸売を続け、アジア太平洋の高級店20軒(うち日本8軒)に商品を置いたうえで、2026年2月20日、自社直営店を代々木上原に開いた――青山ではなく、住宅街の通りに。
- 5ファットバーガーの一度目の日本進出は2018年に東京で始まり、2023年に閉店した。2026年の再挑戦は三つの変数を変えている――現地パートナー、東京ではなく沖縄、そして5年で4店舗というペースだ。フランスのin silico化学安全性評価企業KREATiSは、ジェトロの無償の進出支援を使って2026年4月に東京へ現地法人を設立し、営業部隊ではなく学会を販路にする計画だ。共通する鉄則は、物件を買う前に証拠を買うこと。
扉は開いている。そして見出しは巨人で埋まっている
日本参入のマクロ的な根拠は、静かにこの一世代で最も強くなっている。対内直接投資残高は53.3兆円と過去最高を記録し、前年比4.5%増。買収ではなく新規事業を意味するグリーンフィールド投資も316億ドルで過去最高、同15.4%増だ。2025年6月、政府は2030年の残高目標を100兆円から120兆円へ引き上げ、できるだけ早期に150兆円を目指すと表明した。これはスローガンではない。補助金、税制、そして無償の相談機能が紐づいた予算項目である。
企業レベルの数字も符合する。ジェトロが2026年2月26日に公表した外資系企業調査(有効回答1,520社)では、61.6%が今年度の黒字を見込み、赤字見込みの3.6倍に達した。約6割が日本事業の強化・拡大を予定し、その比率は小売業が最も高い。今年度の増収見込みは5割弱、来年度は5割超だ。不満は実在するが、内容は具体的である――為替の変動、人材確保の難しさ、事業用地・オフィス確保の環境悪化、そして4割近くが米国の関税政策による悪影響を見込む。
このデータが教えてくれないのは、実際にどうやって入ったのか、である。対内投資の報道はデータセンター、物流施設、そして大型案件に偏る。広報部門を持つのがそこだからだ。売上20億円規模のデザイン企業、地方のレストラングループ、社員30人のディープテック――こうした中堅の参入はまったく報じられない。だからこそ、日本参入をめぐる言い伝えは、おおむね10年古い。2026年に完了または確約された4件の参入は、もう一本の調査レポートより価値がある。それは「空気」ではなく「順序」を見せてくれるからだ。
日本の小売に入る二つの扉:マニコミオの銀座と、ボーデの裏通り
マニコミオ・デザインは、2020年にマッシモ・カッビアがフォルリで立ち上げた、完全メイド・イン・イタリーのハンドメイドバッグ・アクセサリーブランドだ。現在の取扱店は200軒超で、イタリア、スペイン、そして何よりも日本で拡大している。日本はすでに同社最大の海外市場になった。ただし、そこに至る5年間に旗艦店は一度も登場しない。動かしたのは卸売、そして日本の百貨店内のポップアップだった――大阪の阪急メンズ、東京の髙島屋。その試行がうまくいったあとで、ようやく旗艦店が予定表に現れる。2026年末、銀座。しかも出すのは、現地のディストリビューターである。
百貨店のポップアップは、欧米ブランドが払っている以上の敬意に値する。阪急メンズの二週間の売場は、SKU別の消化率、そのまま読み取れる価格感応度、他のバイヤーが重く受け止めるバイヤーの評価、そして顧客リストを返してくる――かかるのは商品、什器、そして数回の渡航費だけだ。先進小売市場のどこを探しても、これほど質の高い短期市場テストはない。しかも運営中に黒字になることさえある。それでも多くの外国ブランドが避けるのは、他人の店の中の一角が、提案書に載る旗艦店からの降格に見えるからだ。マニコミオはそれを実験として扱い、答えが出てから、固定費のリスクを日本側のパートナーに引き受けさせた。
ボーデは、正反対の方向から同じ規律に到達した。このニューヨークのレーベルは、この地域で10年近く取り扱われ、アジア太平洋の高級店20軒に卸している。うち8軒が日本だ。2026年2月20日、同社はアジア初の直営店を開いた。ニューヨーク2店、ロサンゼルス1店、パリ1店に次ぐ、世界で5店目の路面店である。アジアで一般的な「卸先と組んで出店する」やり方を採らなかった理由として、エミリー・アダムス・ボーデ・アウジュラは、自分たちの手でやりたかったと述べている。重要なのは、その選択を取れるだけの裏づけがあったことだ。10年の卸売が、一号店では答えられない唯一の問いに、すでに答えていた――日本の客はこれを欲しがるのか。
所有形態と同じくらい、住所が効いている。ボーデは青山も銀座も外し、代々木上原の集合住宅一階を選び、グリーン・リバー・プロジェクトと設計した。賃料は下がり、わざわざ足を運んだ客だけが来て、店そのものがブランドの主張――住宅街に根ざした「町の店」――を体現する。日本では住所が「自分が何者か」の宣言であり、高い住所は、多くの中堅ブランドが二度目の来店で裏づけられない宣言をしてしまう。
二度目の挑戦:ファットバーガーが変えた三つの変数
ファットバーガーは2018年に東京の一店舗で日本に参入し、2023年に閉店した。外資系飲食の失敗としては、ごくありふれた形だ。多くの経営会議は、これを市場そのものへの判決として読む。ところが2026年、同ブランドは戻ってきた。グリーン・マイクロ・ファクトリー社との開発契約により、沖縄で5年間に4店舗。その一号店が嘉手納にすでに開いている。商品は何も変わっていない。変わったのは、構造の三点だ。
第一に、リスクの持ち手。現地の開発パートナーが設備投資、採用、許認可、そしてサプライヤーとの関係を引き受ける――そしてこの四つこそ、日本での所要時間を甘く見た外国事業者の一度目を殺すものである。第二に、地理。沖縄が選ばれたのは、観光に加えて基地周辺の安定した人流があるからだ。英語が通じやすく、回転の速い客層がいる。東京の一等地で、アメリカのバーガーブランドが日本の優れたバーガーチェーンを本拠地で上回らねばならない勝負とは違う。第三に、速度。5年で4店舗は、一店の失敗に耐えられる計画だ。陣取り合戦はそうではない。
中堅企業の経営陣にとって有用な教訓は、日本は小さな外国ブランドの一度目の失敗を覚えていない、ということだ。消費者はチェーンの撤退を追いかけない。家主とディストリビューターは覚えているが、彼らが読むのは「なぜ失敗したか」である。資本不足の拡大と立地の誤りで死んだ一度目と、日本の客に商品を拒まれて死んだ一度目とは、まったく別物として読まれる。二度目を終わらせるのは、一度目と同じ構造を、より大きな予算で繰り返すことだ。
沖縄の理屈のなかに、はっきり言っておくべき但し書きがある。訪日客数を前提に日本を試算しているすべての外資系消費事業に効く話だ。2026年上半期、日本は5年ぶりに訪日客数の減少を記録した。JTBは通年で4,140万人、前年比2.8%減と予測する。ただし消費額は増えている――第1四半期は2.3兆円で2.5%増、第2四半期はおよそ2.51兆円で0.2%増、買物代と飲食費はいずれも伸びた。客は減り、一人あたりは増えている。観光がピーク量にあるときだけ成り立つ業態は、日本事業ではない。賃貸借契約のついた為替の賭けである。
もっとも静かな参入:営業部隊を持たない試験機関
KREATiSは2014年にリヨン近郊で創業し、化学物質の安全性をコンピュータ上(in silico)で評価する企業だ。自社プラットフォームiSafeRatは、REACH対応、規制対応データの生成、研究開発支援、実務者研修を提供し、いずれも動物実験の代替として位置づけられている。2026年4月、同社はアジア太平洋展開の第一歩として、東京都中央区にKREATiS Japan株式会社を設立した。会社登記、税務・労務、専門事業者の紹介、広報は、ジェトロの対日投資ビジネスサポートセンター(IBSC)が担った。市場開拓の計画は、研究者と業界専門家に向けた学会参加を主軸に顧客基盤を築くことである。
軽く読めば、営業を雇えないほど小さな会社の話に見える。正しく読めば、規制のかかった技術市場における正解のチャネル選択だ。日本のコンプライアンス部門や研究開発部門の買い手は、プレゼンでは買わない。社内で引用できる裏づけで買う。日本人研究者との共同発表は、マーケティングではなく流通である。課長級が上司に稟議を通すために必要な、第三者による信頼を製造するからだ。その信頼が存在する前に雇われた営業部隊は、最初の18か月を、一人あたり年1,500万円をゆうに超えるコストでそれを作ることに費やし、たいていは実る前に去る。
KREATiSの話の後半は、無償のインフラだ。ジェトロのサポートセンターは、中堅企業の経営陣が「やらない理由」に使う初期固定費のほとんどを取り除く――法人登記、税務、労務、そして自力なら3か月かかる会計士や弁護士の紹介まで。日本が自社に合うかどうかを確かめるコストは、崩落した。日本で人を雇うコストは、崩落していない。今年の最低賃金4.9%引き上げと、人手不足倒産の過去最多ペースが、その文の残り半分である。だからこそ、この4社に共通する「順序」は、5年前より重い意味を持つ。
4社に共通する一つの掟:物件を買う前に、証拠を買え
業種を剥ぎ取ると、同じ四つの判断が現れる。この4社はいずれも、賃貸借契約を結ぶ前、あるいはカントリーマネージャーを雇う前に、日本の需要の証拠を持っていた――卸売の数字、ポップアップの消化率、フランチャイズパートナー自身の市場読み、あるいは査読を経た科学の蓄積である。いずれの場合も、現地の誰かがコストを負っていた。ディストリビューター、フランチャイジー、卸売網、あるいは書類仕事を無償で引き受けた政府機関。4社のうち3社では、機能した住所は提案書なら却下されたはずの住所だった――住宅街の通り、東京から1,500キロ離れた県、学会場。そしてどの社も、四半期ではなく年単位の計画で動いた。それが、日本の信用の正直な形である。
これは算術として言っておく価値がある。失敗の型は、高価で、見慣れているからだ。「高い順から始める参入」――威信のある賃貸物件、本国から送り込むカントリーマネージャー、翻訳した資料、そのすべてを、データが一つもない段階で確定させる――は、外国ブランドが日本の客に自分を説明する力を最も欠いている、まさにその数か月に資金を燃やす。信頼に足る中規模参入は、90日のローンチではなく、6〜8か月の実務である。本気版の予算はおおむね25万〜60万ドルに着地し、その大半は平米数ではなく、ローカライゼーションとバイリンガル人材1〜2名に向かう。
ここがMedusa Japanの仕事の中心であり、私たちが何よりも先にローカライゼーションの層を作る理由でもある――サイト、カタログ、製品の言葉、そして日本の買い手が実際に動ける営業資料。上に挙げた二つの道筋は、どちらもそこに依存している。ディストリビューターは、説明できないものを増幅できない。直営店は、誰も測っていない需要より先には開けない。ローカライゼーションは計画の最後に置く翻訳工程ではなく、計画そのものの前提になるはずの証拠を生み出す計測器である。
最後にタイミングの話を一つ。支援の予算はかつてなく厚く、確かめるためのコストはかつてなく低い。しかし運営コストは賃金の下限とともに上がり、人材はいまやどの調査でも最初に挙がる制約であり、既存の日本企業を手に入れるもっとも簡単な道――買収――は、2027年からより厳しい審査に直面する。2026年の静かな参入は、2028年には当たり前に見えるだろう。そしてまだ稟議書を書いている企業は、2026年の情報に2028年の値段を払うことになる。
よくある質問
日本の百貨店ポップアップはやる価値があるのか、それとも本番のローンチから気をそらすだけか。
日本にはディストリビューター経由で入るべきか、それとも自社で出るべきか。
一度日本に挑戦して撤退した。それは再挑戦の資格を失わせるのか。
当社は消費者向けの物語を持たない小さなB2Bの技術企業だ。この話は当てはまるのか。
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Medusa Japan
Medusa Japanは大阪を拠点とするクリエイティブエージェンシー兼AIプロダクトスタジオで、日本とグローバル市場間のクロスボーダービジネス戦略を専門としています。
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